好き≠恋(日文版)-第3部分

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「そんなに俺と撸Г婴诵肖�の楽しみだった？」
「はぁ？」
　意味の分からない伲鼏枻颏筏皮�た歩に、健人は怪訝な顔をした。大嫌いでたまらない歩と撸Г婴诵肖�のを、楽しみになどしているわけがない。手を振り払うことすら忘れて、健人は歩を見上げた。
「今日の予定だけど。映画見た後に、昼飯食べて、そっからショッピングモ�‘ルの中をぶらぶらして、ゲ�‘センに行こう」
「……え」
　てっきり、映画を観たらすぐに帰れると思っていた健人は、驚きのあまり否定することすら出来なかった。ただ、ぽかんと口を開けた状態で楽しそうに喋る歩を見上げていた。
「でさ、なんか買い食いして、夕方まで時間つぶしてから家に帰ろうよ。せっかくの休みなんだし。17歳は今しかないんだから、健人も楽しまなきゃ」
　楽しそうに喋る歩を見て、健人は何も言えなかった。バカバカしいと言うより、どこか不思議な感覚に陥る。毎回のことだが、いつもひどい態度をとっているのに、どうして歩は笑いながら話し掛けてくることができるんだろうか。不思議でたまらなかった。
「ほら、早く行こう。さすがに時間がヤバイ」
　歩は手を離して、立ち止まっている健人の背中を叩いた。健人は腕時計で時刻を確認し、開演15分前を指しているのを見て、少し歩くスピ�‘ドを速めたのだった。
　すでに歩はチケットを買っていたので、映画館に着くなり、健人にチケットを渡した。観る映画はCMも頻繁にやっているホラ�‘の洋画で、壁に貼り付けてあるポスタ�‘を見つめて健人は息を吐いた。
　特に怖いのが苦手と言うわけではない。ただ、映画館のあの暗さが少し苦手だった。そんなことを言ってしまえば、映画館で映画など見れないわけだが、今まで貧乏だったこともあって映画館で映画を観る機会なんてそうそう無かった。だから、映画館の暗さに耐性が無く、未だに慣れない。
「健人、何飲む？」
　これから観る映画のポスタ�‘を見つめ、入場までの時間を潰していると背後から話しかけられた。映画館の中で販売されているジュ�‘スを飲むなんてしたことが無い健人は、歩が何のことを言っているのか分からず首を傾げた。
「映画観てたら喉乾くじゃん。俺が奢ってあげるからさ」
　売店を指差され、ようやく、映画を観るとき用の飲み物を買う話だと気づいた。目を細めてメニュ�‘表を見つめるが、あまり視力が良くないため、メニュ�‘が見えない。
「何があんの？」
「コ�‘ラとオレンジジュ�‘ス、メロンソ�‘ダ、アイスティ、コ�‘ヒ�‘、ウ�‘ロン茶、カルピスとかかな」
「……じゃぁ、メロンソ�‘ダ」
　意外と子供っぽい飲み物を言った健人に、歩は目を見張った。健人のことだから、アイスティとかアイスコ�‘ヒ�‘を頼むのかと思えば、一番飲まないと思ったメロンソ�‘ダと答えた。それがあんまりにも似合わないので、噴出してしまった。
「な、何笑ってんだよ」
　メロンソ�‘ダと答えたらいきなり噴出した歩に、健人はムッとする。しかし、そのムッとした中にも恥ずかしさが入り混じって、あまり強く言うことが出来ない。
「……いや、メロンソ�‘ダとか飲むんだなぁって思って。家じゃ、コ�‘ヒ�‘とかお茶しか飲んでないし、学校でもジュ�‘スなんか飲まないじゃん。だから、健人ってジュ�‘ス飲まない人かと思った」
「うるさい。早く買いに行けよ！」
「……はいはい」
　照れて怒鳴った健人に、歩は笑いながら売店へと向かった。あまり表情の無い健人の意外な一面を見ることが出来た。照れたりなんかすることなんて無いと思っていたのに、ふと、健人を見ると入り口の隣で俯いていた。
「たまには人間らしい表情するんだなぁ」
　怒っている表情か、愛想笑いしている顔しか見たことが無かったから、とても新鮮だった。
　歩がポップコ�‘ンと飲み物を買っている最中に、スクリ�‘ンの入場を始めた。急に混雑し始めた入り口で、健人は入場する人の邪魔にならないよう端っこで歩が来るのを待っていた。頻繁にCMをやっているせいか、観に来た人は多く、入口は列になっていた。
「凄い人だね。こんなにいっぱい来るとは思わなかった」
　急に声が聞こえて、健人は顔を上げる。両手にジュ�‘スを持ち、右腕でポップコ�‘ンを挟んでいる状態の歩はかなり歩き辛そうで、健人は「ジュ�‘スもらう」と言って右手を差し出した。
「はい」
　歩の左手からジュ�‘スを受け取り、健人は俯きながら「ありがとう」と小さい声で礼を言う。こんなことを言わなければいけないなら、最初から買ってもらうんじゃなかったと後悔していると、上から「どういたしまして」と明るい声が聞こえた。
「中、入ろうか。もう始まるし」
「……そうだな」
　健人は頷くと、ぞろぞろと人が入っていく薄暗い館内を見つめた。暗いところは、あまり得意ではない。ホラ�‘が苦手と言うわけではないが、いきなり大きい音が鳴ったりするのはあまり好かず、急に心拍数が上がってしまう。頭の中に蘇る記憶が、余計に健人の気持ちを怖くさせた。
　まだ薄明るい館内はざわざわと人の話し声がする。椅子に座ってから、健人はドリンクホルダ�‘にジュ�‘スを置くとポケットの中に入れている携帯電話を取り出して電源を切った。真っ暗になったのを確認してから、ポケットに携帯を仕舞い、スクリ�‘ンを見つめた。フッと、照明が落とされて映画の予告が始まる。
　真っ暗な中、映し出されたスクリ�‘ンには人の姿が見える。ドンと大きい音がして、健人は拳を握った。アクション映画の予告なので怖い要素など全くないと言うのに、音と暗さが健人に恐怖を植え付ける。
　ひと際、館内が暗くなったところで、映画が始まった。ホラ�‘ミステリ�‘と銘打ったこの映画は、殺人鬼が家を襲って行く。グロテスクな表現もあり、年齢制限が設けられていた。最初は静かだと言うのに、殺人鬼が現れるとそれに応じて音量も徐々に大きくなっていった。
　どれほど、残酷な表現があろうとも、健人の表情が変わることは無い。それなのに、大きい音がしたり、雷が鳴ったりするシ�‘ンではビクッと体を震わせてしまう。それが目の端に映った歩は、ポップコ�‘ンを食べながら、少しだけ健人を見た。
　真剣にスクリ�‘ンを見つめている表情は、学校で授業を受けているときと同じ表情だ。震えたのは気のせいかと思い、スクリ�‘ンに目を写すと、殺人鬼が包丁で人を襲っているところだった。こんなところを授業と同じ表情で見れる健人は、怖がりではないことが分かる。映画がクライマックスになり、夜中に殺人鬼が家の中を徘徊するシ�‘ンでのことだった。
　外では雨が降っていて、屋根に雨粒が当たる音が響いている。時折、雷鳴が鳴って、稲妻が光り、殺人鬼の姿が映し出された時だった。
「……っ！」
　隣から漏れるような悲鳴が聞こえて、歩は健人に目を向けた。しかめっ面で画面を見つめて、泣きそうな顔をしていた。膝の上に置かれた手を見てみると、カタカタと震えている。人をめった刺しにしているシ�‘ンを無表情で見ていた健人が、雷に照らされた殺人鬼を見るだけで怯えるなんて可笑しい。
　もう一度、雷鳴が館内に鳴り響く。健人に目を向けていた歩は、スクリ�‘ンで何が映っているのか分からないが、健人が大きく震えたのが分かった。
　無意識だった。
　カタカタと震えている健人の手を右手で包み込む。
　歩が手を握ると、さっきまで大きく震えていた手の動きが、ぴたりと止んだ。
手を包み込む暖かい体温に、驚きよりも安堵感を感じてしまった。落ち着かせるように強く握った手は、数分ほど経つとパッと離れた。健人は先ほどまで握られていた手を、自分の手で握って感触を確かめる。大きくて暖かい手は、恐怖で震えていた健人を一瞬にして落ち着かせた。不覚にも、助けられた気がして、健人は俯いた。
　それから映画は10分ほどで終わってしまった。逃げ切った主人公は、警察官に助けられて一命を取り留めると言う何ともありきたりな展開だった。エンディングロ�‘ルが流れ始めても歩が動かないので、健人は英語で書かれている文字を見つめていた。少しは読む勉強になるかと、英語を見つめているが、流れるのが早く読み取ることが出来なかった。
　最後に監督の名前が流れ、映画館に明かりが付いた。どこか、さっきのことは話しかけ辛く、健人は歩を見た。その時丁度、歩も健人を見て仄かに笑った。
「おなか、空いた？」
「……は？」
　手を握っていたことに一切触れない歩は、残っているジュ�‘スを飲みほして立ち上がった。バカにされるか、怖かったのかとからかわれるのかと思っていた健人は、唖然としたまま立ち上がることが出来なかった。
「俺、朝ごはん食べてないから腹減ってんだよね。健人、何か食べたいのある？」
　あくまでも、映画の最中に震えていたことは話睿�にするつもりがないようだ。それにちょっとだけ安心してしまい、健人は飲みほしたカップをホルダ�‘から抜き立ち上がった。
「……別に何でも良いよ」
「そう。今からだと空いてると思うから、早く行こう」
　歩き始めた歩の後ろを追って、健人も館内から出た。左手で、空になったカップをゴミ箱に捨てる。落ち着かせるように握られた手は、まだ少し熱かった。
　いつもより早めに歩く歩の後ろを追っていると、歩いているだけでは間に合わず、健人は競歩と小走りの中間で歩の後ろをついて行った。いつもだったら健人が前を歩き、歩が後ろから追ってくるのに、いつもとは摺�う状態に健人は付いていけそうにない。やはり、身長が10センチ摺�うと、足の長さも摺�うようで、歩は普通に歩いているようだが健人には早すぎて付いていけない。それでも、待ってとか、早いとか言うことが出来ずに必死に追いかけていた。
　シッピングモ�‘ルの中に映画館が入っていたので、映画館から出るとショッピングをしに来た人たちが沢山いた。人ごみに紛れて行く歩の後ろ姿を追いながら、健人は人とぶつからないように追いかける。先に歩いていたとしても、付いてきているかどうか確認しながら歩いているのに、今日は先へ先へと歩いて行ってしまう。置いて行かれる事が、急に悔しくなって、健人は足を速めた。
　健人が歩の後ろにようやく追いつくと、気配を感じたのか歩が振り向いた。
「高校生は高校生らしく、マックにでもする？」
　振り向いた歩の表情はいつも通りだった。早く歩いていってしまったので、何かあったのかと思っていたがそうではないようだ。手を握ったり、置いていったりなど、歩が何をしたいのか健人には分からない。
「だから、何でも良いって」
「じゃ、マックにしよっか。ちょうど、フ�‘ドコ�‘トも空いてるし」
　そう言って歩はまた背を向けて歩き始めた。今度は置いていかれないよう健人が少し後ろを歩いていると、歩がスピ�‘ドを落として隣に並ぶ。さっきは置いていったのに、次は隣に並んでちゃんといるか確認するように歩いているのを見ると、歩も置いていってしまったことに気づいていそうだった。
　フ�‘ドコ�‘トに入った二人は、すぐにレジへと並ぶ。昼時を過ぎているにも関わらず、少々、列が出来ていた。健人が先に並んで、歩がその後ろに並ぶ。会話は特に無く、健人はメニュ�‘を見ながら何を食べようか考えていた。
「健人はどっか行きたいところある？　俺、付き合うよ」
　メニュ�‘をジッと見つめていると、歩が後ろから話し掛けてきた。健人はメニュ�‘から目を外して、少し上にある歩を見上げる。このあと、ショッピングモ�‘ルをブラブラすると、歩が張り切って言っていたのを思い出す。
「あぁ、本屋行きたい」
「お、珍しい。健人のことだから、どこでも良いって言うのかと思った」
　健人が歩に対して、行きたいところを要望するのは初めてだった。それが初めてと言うより、二人で出かけるのが初めてなのだから、仕方がない。
「本屋行って何を買うの？」
　参考書を買いたいと言おうと思ったが、健人は口をつぐむ。また、意地を張ってるだとか、勉強ばかりで人生楽しいの？　とかバカにされそうな気がして「何だって良いだろ」とはぐらかした。
「健人が漫画を読むとは思わないから、小説とかその辺？　つ�‘か、本棚の中、参考書しか入ってないよね」
「何で本棚の中身、知ってんだよ」
　健人が覚えている限り、歩を部屋に入れた回数は片手程度だ。昨日は部屋の中まで入ってきたが、それまでは扉のところで用件を交わすだけだったので、部屋の中になど入れた覚えが無い。
「昨日、見たから」
「……へぇ」
　本当は隠れて入ったのではないかと疑ったが、歩が健人の部屋に入る理由が分からない。目新しいものなど一切ないし、部屋においてあるのも教科書や参考書などしかない。
「じゃ�‘、本屋行ったら、ゲ�‘センに行こう。そんで、エアホッケ�‘やろう」
「イヤだよ」
「え�‘、何で、やろうよ。楽しいってば！」
　健人が即答すると、歩は大げさな反応を見せる。この前、ジンと二人でエアホッケ�‘をやっている話は聞いていたけれど、その中に混ざるなんて健人からしたら考えられないことだった。それに邉由窠Uも反射神経もさほど良くないので、負けるのが目に見えている。ただでさえ、いろんなところで歩には負けているのだからこれ以上負けたくなかった。
「絶対にイヤ」
「……ちえ�‘。じゃぁさ、マリオカ�‘トやろう。あれも面白いよ」
「やんない」
　歩の要望をことごとく却下し続ける健人にめげず、歩は次々と一緒にやろうとゲ�‘ムを勧めていく。そんなことをしている間に、前の人が移動したので健人は歩を放って歩き始めた。
　ゲ�‘ムなどしたことのない健人に、一緒にやろうと勧めてくることが無证工�るのだ。どうせ、ゲ�‘ムセンタ�‘に行っても楽しめないのは分かっている。最初から諦めて断り続けていると、「待ってよ」と焦った声が聞こえた。
「ゲ�‘セン行って別々行動は面白くないじゃん。なんかやろうよ。1個ぐらい」
「……はぁ？　別にやんなくたっていいだろ」
「俺がイヤなの。やりたいの」
　健人がイヤだと言っても歩は引き下がらなかった。一緒にゲ�‘ムをやりたい理由なんて、健人には想像すらつかない。しかし、負けることが分かっているのに、好んでやる奴などほとんど居ないだろう。どう言えば諦めるだろうかと、健人は考える。
「別にさ、レ�‘スとかじゃなくてさ。あれ、やろうよ。お菓子マウンテン」
「……は？」
　初めて聞く名前に、健人は首を傾げた。名前からして大体のものは想像できるが、ゲ�‘ムセンタ�‘などに行かないのでどんなゲ�‘ムなのか分からない。
「お菓子が山積みになってるのを倒していくんだよ。コインゲ�‘ムのお菓子バ�‘ジョン。見れば、分かるよ。それでお菓子をいっぱい取れたほうが勝ち。頭を使うから、俺より健人のが上手いと思うけど」
　煽ててきた歩に、健人は頷くしかなかった。コインゲ�‘ムのお菓子バ�‘ジョンと言われても、コインゲ�‘ムがどんなものか分からない。これ以上、歩に説明を求めるほうが無证蕷荬�して、頭のいい人のほうが勝てると言う煽てにまんまと仱盲�ってしまった。
「じゃ、早く食べていこう」
「おい、本屋は？」
「……あぁ、後ででいいじゃん」
　ゲ�‘ムセンタ�‘の話をしている間に、本屋へ行くことを忘れてしまっていたようで、歩は苦笑いでそういった。最初に、どこへ行きたいと尋ねてきたのは歩だと言うのに、なんとも都合の良い話だ。健人は「先、本屋に行く」と言って、注文をしにレジの前まで移動した。
　まさか、こんな風に歩と撸Г秩栅�来るなんて、健人の中では有り得ないことだった。嫌いと認識した相手と、二人っきりで撸Г证胜螭破胀à扦蠠oいことだ。あまり人を嫌いになったことが無いからこそ、健人は退けないところまで嫌いになってしまっていた。
　見ているだけで、憎くなる。その表現がぴったりだった。いつも笑っていて、笑顔を絶やさない歩が憎くてたまらない。
「参考書、買うんでしょ？」
「うん」
「早く、終わる？」
　ポテトを食べながら、少し首を傾げた歩に、健人は「見つかればな」と目を逸らしながら答えた。このまま、歩を見ていたら、またいろんなことを思い出してイラついてしまうに摺�いない。ここまで来て苛立ちながら行動するのも嫌なので、健人は意識しないようにした。
「何の参考書？　俺も一緒に探すよ」
「数学。でも、自分で探す」
　歩の好意を一刀両断した健人は、オレンジジュ�‘スを飲み干す。これで食事は終わり、健人が飲み終わったのを見計らって歩は立ち上がった。
「じゃ、いこ。本屋の隣、ゲ�‘センだから。俺、先に行ってるよ」
「分かった」
　それから二人は少しの間、別々で行動をしたのだった。
　本屋でつい、参考書を立ち読みしてしまっていた健人は、誰かに本を奪い取られたところでようやく現実世界に戻ってきた。完全に、熟読してしまっていた健人は、本を取り上げた歩を見上げる。
「……あ、ごめん」
　さすがに今回は行くと言って行かなかった事に罪悪感を感じて、歩に謝った。
「別にいいよ」
　返事は淡々としていて、怒っている様には見えない。歩が手に持っている参考書を買おうと手を伸ばすと、さらに持ち上げられた。
「……な！」
「その代わり、俺とマリオカ�‘トやろう」
　ここぞとばかりにそう言った歩に、健人は「ふざけんな！」と叫んだ。参考書は歩が持っている1冊しか在庫が無く、それを買うためにはマリオカ�‘トをやらなければいけない。どうしようかと迷っていたら、歩が「どうすんの？」と試すように尋ねた。
「健人が1回でもやるって言えば、コレ、すぐに渡すよ」
「1回でいいんだな」
「うん。いいよ。そのあと、健人が好きなように撸Г螭扦いい贰�
　そこまで妥協するならマリオカ�‘トも妥協してくれればいいものの、どうしてもマリオカ�‘トを対戦したいらしく、健人は仕方なく了承し「早く返せ」ともう一度、手を伸ばした。
「この数学の参考書って……」
「中身まで見るな」
　下ろしたのを機に、健人は歩の手から参考書を奪い取った。見られたくないから、探さなくていいと言ったのに、熟読して迎えに来られてしまえば意味が無かった。健人は取り戻した参考書を握り締めて、レジへと向かった。
　会計が済んだ後、歩が笑顔で健人を待っていた。こっちこっちと、逃げられないよう腕を掴まれ、健人はされるがままに引っ張られた。騒々しいぐらい音が鳴っているゲ�‘ムセンタ�‘の中に入り、歩はレ�‘シングゲ�‘ムが並んでいるエリアまで健人を連れて行く。配管工の剑�が描かれている看板を見つけて「あれだよ、あれ」と指差した。
「……ガキばっかりじゃん」
　子供が楽しそうにキャアキャア言いながらゲ�‘ムしているのを見て、健人は歩に目を移す。あんな子供にまぎれて対戦だなんて、恥ずかしくてたまらないだろう。それでも、歩は躊躇うことなく「行くよ」と言って、健人の腕を引っ張った。
　二人対戦用の席が空いているのを見ると、歩は歩くスピ�‘ドを速めてゲ�‘ム機へと近づく。すぐに仱贽zみ、100円をゲ�‘ム機に投入した。やると言ったので、約束は破れないと健人も隣に座って100円を入れる。
　アナウンスが始まり、ハンドルを動かしながらキャラクタ�‘を選ぶ。家庭用のゲ�‘ム機ですらマリオカ�‘トをやったことがなく、健人は細かく説明を聞きながら操作をしていく。アクセルとブレ�‘キの場所を確認してから、座席を移動させる。慣れている歩はすでにレ�‘スが出来る状態で健人を待っていた。
「はてなを取ったら、アイテムくれるから。それを上手く使っていくんだよ」
「……うん」
　助言など嬉しくないが、ここは経験者の話を素直に聞いておく。助言をすると言うことは、下に見ているのだろう。やったことはないが、負けたくないと健人は闘志を燃やす。
「じゃ、負けた人はクレ�‘プね」
「……は！？」
　急にそんなことを言われて、健人は素っ頓狂な声を上げた。しかし準備が整い、画面が切り替わってしまい、それ以上何も言い返すことができなかった。
　信号機が画面に表示され、カウントされていく。スタ�‘トした時点で、歩は摺�っていた。勢いよくスタ�‘トした歩に比べ、健人はとろとろとスタ�‘トする。アクセルの踏み込みが悪いのかと思えば、壁に激突してしまい、はっきり言うと散々だった。
　もちろん、結果は歩が圧倒的大差で勝ち、健人はびりだった。
「……まぁ、俺、これ、結構やってるし」
　あまりにもひどい結果だったので、元気付ける言葉が思いつかなかった。悔しそうに俯いている健人を見て、歩は少しだけ申し訳ない気分になった。健人は唇を尖らせて、ハンドルを見つめている。先ほど本屋で買った参考書を掴むと、いきなり立ち上がったので帰ってしまうのかと歩は思った。
「え、あ、健ちゃん？」
「健ちゃんって言うな。気持ち悪い」
　不貞腐れた健人は歩に背を向けて、ゲ�‘ムセンタ�‘内を歩き始める。置いていかれないよう、歩もすぐに立ち上がり健人の後を追った。
「ちょちょ、健人。どこ行くの」
「負けた奴は、クレ�‘プ奢るんだろ？」
　どうやら、レ�‘ス前に言った賭けのことだったらしく、健人が向かう先にはクレ�‘プ屋があった。あまりにも散々な結果だったので、奢ってもらうことなどすっかり忘れてしまっていた。歩は力なく笑うと「今回は俺がおごるよ」と言って、スピ�‘ドを速くして健人の前に回った。
「……え、でも、負けた奴がって」
「じゃ、今度にしよう。次、対戦したときは負けた人が奢って。俺とちゃんと勝負ができるぐらい、強くなってよ」
　仄かに笑みを浮かべながら言う歩に、言い返そうと思ったが健人は言うのをやめた。強くなってよと言うが、一人でゲ�‘ムセンタ�‘まで来て特訓するのも嫌だし、歩と一緒に行くのも嫌だ。今日限りのことだと、自分に言い聞かせた。
　二人は買ったクレ�‘プを片手に、家へと戻る。気づけば、夕暮れ時になっていて、出口はショッピングモ�‘ルから帰る人たちで溢れている。それでも、少し歩いて住宅街に入ると、日曜のせいか人はまばらだった。
　黙々とクレ�‘プを食べ続け、二人の間に会話は無い。健人は歩の少し前を歩いて、チョコレ�‘トソ�‘スがいっぱいかかったクレ�‘プを口にしていた。なんのクレ�‘プが食べたいかと尋ねられて、チョコレ�‘トと答えた時も、歩に爆笑された。どうも、甘い食べ物は嫌いだったと思われていたようで、マックでオレンジジュ�‘スを頼んだ時も意外がられた。
　健人は歩のことを全く知らないが、歩も同じなようだ。今日で、いろんなことを知ったけれど、あまり喜べないのが現状だった。
「……健人」
　後ろから名前を呼ばれて、健人は足を止めて振り返る。歩はクレ�‘プを食べ終わったようで、手ぶらだった。
「何？」
　素気なく、いつも通り返事をすると、歩はと小さく笑う。
「俺のこと、嫌い？」
　笑顔でそんな伲鼏枻颏筏皮�るから、健人は不思議な気分になった。その伲鼏枻蛲钉菠�けられたとき、どうして、そんなことを聞いてくるのかと尋ねたくなった。しかし、伲鼏枻丹欷郡长趣速｜問で返すのはどうかと思い、健人は返事をする。
「嫌いだ」
　はっきり言っても、歩の表情は一切変わらなかった。ただ、「やっぱり」と言うだけだ。
「お前は、どうなんだよ」
　本当は伲鼏枻筏皮�た意味を聞きたかったが、健人は摺�う伲鼏枻颏筏皮筏蓼盲俊�歩の後ろに夕日があるせいで、健人からは表情が見えない。
「俺？　好きだよ、健人のこと」
　あっさり返された答えが、どうもしっくりこなかった。何かが頭の中に引っ掛かり、健人は怪訝な顔をした。歩からその表情は、嫌がっているように見える。
「いくら、健人が俺のこと嫌いでも、俺は健人のこと好きだから」
　そう言った途端、夕日が雲にかかって、歩の表情がやっと見える。
　健人の目に映ったのは、いつも腹立つ、あのへらへらとした笑顔だった。
　新しいクラスに替わってから、1ヶ月が経った。5月の連休も終わり、そろそろ中間