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仮面城(日文版)-第10部分

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     どろぼうの忘れ物

 おじさんが電話をかけると、すぐにおまわりさんがやってきた。そのおまわりさんは|上《かみ》|村《むら》さんといって、たいへんしんせつな人だった。
 上村さんは話を聞くと目をまるくして、
「へえ、どろぼうがこの子をおきざりに……」
 上村さんはなだめたり、すかしたりして、さまざまにたずねたが、少女は泣くばかりで、ひとこともこたえない。上村さんはとほうにくれて、とうとう少女を警察へ連れていくことになった。
「ねえ、上村さん、おねがいですから、この子をあまりおどかさないでね」
 おかあさんは心配そうに少女にむかって、
「あなた警察へいったら、なにもかも、正直にいうんですよ。こわがることはありませんからね。あなたは悪い子じゃない。それは、このおばさんがちゃんと、知ってますからね」
 少女はそれを聞くといよいよはげしく泣きながら、おまわりさんに連れていかれた。
 その日は日曜日だったので、夜があけてからも一同は、このふしぎな事件について語り合った。しかし、だれにもこの謎を、とくことはできなかった。
 どろぼうが、悪魔の画像をぬすみにきたことはわかっている。しかし、あの少女はどうしたのだろうか。あの子はどろぼうの仲間なのだろうか。
 みんなそれをふしぎがっていたが、しかし間もなく、その謎だけはとけた。昼すぎに上村さんがやってきて、
「やっとあの子がしゃべりましたよ。あの子は|杉《すぎ》|芳《よし》|子《こ》といって……」
 と、上村さんは悪魔の画像を指さしながら、
「この剑颏い可紕僦蚊盲胜螭扦埂
 それを聞くと一同は、ギョッと顔を見合わせたが、そこで上村さんの語るところによるとこうなのだった。
 杉勝之助が自殺したとき、芳子はまだ七つだった。ふたりには両親がなかったので、おじの|諸《もろ》|口《ぐち》|章太《しょうた》というひとが、芳子をひきとった。そのとき章太は、勝之助の剑颏工盲陦婴辘悉椁盲皮筏蓼盲郡韦扦ⅳ搿¥饯欷い蓼榘四辘郅嗓蓼à韦长趣坤盲俊
 芳子はそののち章太に育てられたが、ちかごろおじのそぶりに、へんなところがあるのに気がついた。章太はときどき、真夜中ごろ、そっと帰ってくることがあった。しかも、どうかすると、まるく巻いた布のようなものを持ってくるのだ。芳子はあるとき、ソッとそれを眨伽埔姢啤ⅳ饯欷四辘蓼à俗詺ⅳ筏俊⑿证谓}であることに気がついた。芳子はへんに思った。
 ところがそのころある新聞に、ちかごろあちこちで、杉勝之助の剑踏工蓼欷毪趣いτ浭陇訾皮い郡韦扦ⅳ搿¥饯欷蛘iんだときの芳子のおどろきはどんなだっただろうか。
 おじさんが、兄のかいた剑颏踏工螭扦蓼铯盲皮い搿¥胜激饯螭胜长趣颏工毪韦铯椁胜いⅳ饯欷蠍櫎い长趣摔蓼盲皮い搿
 あるとき芳子は泣いておじさんをいさめた。しかし章太は聞こうとはせず、その後も勝之助の剑韦ⅳ辘颏膜趣幛皮稀ⅳ踏工螭扦毪韦馈7甲婴蠚荬沥い摔胜辘饯Δ坤盲郡ⅳ蓼丹珜gのおじをうったえるわけにもゆかない。
 ゆうべもおじが家をぬけ出したので、そっとあとをつけてくると、はたしてこの家へしのびこんだ。そこでじぶんもあとからはいってきて、とめようとしたが、章太はその芳子をいすにしばりつけ、さるぐつわをはめてしまったのだというのだ。
「おそらくこの剑蚯肖辘趣盲郡椁い蓼筏幛颏趣い啤⑦Bれて帰るつもりだったんでしょうが、そのまえに発見されたんですね」
 三人は話を聞いて、おもわず顔を見合わせた。
「それで、その男はどうしました?」
「あの子から住所を聞くとすぐ行ってみましたが、もちろん帰っちゃいませんよ。ところでここにわからないのは、その男がどうして杉勝之助の剑颉ⅳ饯螭胜藷嵝膜摔丹筏皮い毪韦趣いΔ长趣扦埂I激谓}には、そんなにねうちがあるのですか」
「杉はたしかに天才でした。しかし、それはごく一部のひとがみとめているだけで、世間では問睿摔筏皮い胜盲郡韦扦工椤ⅳい蓼澶Δ藗帳訾毪趣纤激à蓼护螭汀
「だからわからないのです。ひょっとするとその剑摔稀ⅳ胜摔孛埭ⅳ毪螭袱悚胜い扦筏绀Δ=}のねうちとはべつに……」
 それを聞くと良平は胸がドキドキした。いままでに読んだ探偵小説などを思いだし、きっとその剑窝Yに、なにかたいせつなものがかくされているのだろうと思った。
 しかし、すぐそのあてははずれてしまった。一同は悪魔の画像をがくからはずして、ていねいに眨伽皮撙郡ⅳ筏贰ⅳ伽膜摔铯盲郡长趣獍k見できなかったのだ。
 こうして、一同は、奥歯にもののはさまったような、もどかしさをかんじたが、するとそこへ美也子がみまいにやってきた。美也子は欣三おじさんから、ゆうべの話を聞くと、目をまるくしておどろいていた。
「ねえ、美也子さん。あなたは杉にうらみがあるといってましたね。それはいったいどんな話なの。なにか参考になるかもしれないから、ひとつその話をしてくれませんか」
 そういわれると、それ以上かくすわけにもいかず、美也子はつぎのような話をした。

 美也子のうちにはエル.グレコの剑ⅳ盲俊%ē耄哎欹长趣いΔ韦稀ⅳい蓼槿倌辘ⅳ蓼辘蓼à怂坤螭昆攻讠ぅ螭未蠡窑恰ⅴ哎欹长谓}といえばたいへんなねうちがあるのである。美也子のうちにあったのは、拢弗蕙辚ⅳ驻ぅ辚攻趣颏坤い啤㈦叅韦胜肆ⅳ盲皮い雵恧坤盲郡ⅳ趣Δ丹螭夤眯肖颏筏郡趣ⅴ榨楗螗工琴Iってきたものなのだそうだった。
 ところが戦後、うちがまずしくなったとき、その剑驂婴恧Δ趣筏茖熼T家に見せると、いつの間にか、にせものにかわっていたというのだ。
「父が外国から持って帰ったとき、それはたしかにほんものでした。それがにせものにかわっていたとすると、日本でだれかにすりかえられたにちがいございません。そこで思いだすのは、いまから九年まえ、杉さんがその剑蚰P搐胜工盲郡长趣扦埂
 模写というのは原画とそっくりおなじにうつすことで、画家は勉強のために、古い名画をよく模写することがあるのである。
「杉さんは一月ほどうちへかよって、その剑蚰P搐胜丹い蓼筏郡ⅳ饯欷悉瑜扦磕P搐恰⒃趣饯盲辘扦筏俊¥坤椁Δ沥谓}がにせものにかわっていたとすれば、そのとき、杉さんが模写なすった剑瑜辘郅摔ⅳ毪悉氦胜ⅳ窑绀盲趣工毪壬激丹螭ⅳ坤欷摔郡韦蓼欷啤趣いΑⅳΔ郡い獬訾皮毪铯堡扦埂¥筏贰ⅳ饯韦趣摔稀⑸激丹螭悉氦盲趣啶筏送訾胜椁欷皮い郡韦恰ⅳ劋工毪铯堡摔猡蓼い辘蓼护蟆¥妞Δ偕激丹螭韦蓼à颏Δ盲郡趣ⅳ栅趣饯韦长趣蛩激い坤贰ⅳい蓼猡贰ⅴē耄哎欹长谓}さえあったら、おかあさまを入院させることもできるのにと……」
 美也子がなげくのもむりはなかった。エル.グレコは世界的な大画家だから、いまその剑ⅳ盲郡椤⒑吻騼摇ⅳい浜蝺|円するかわからないのである。
 良平は美也子の、かさねがさねの不幸に、同情せずにはいられなかった。
 さてその日の夕がたのことである。なにかどろぼうの残していったものはないかと、もう一度家のまわりを眨伽皮い苛计饯稀⒎櫎蜗陇位▔韦胜椤ⅳ栅取ⅳ丐螭胜猡韦蛞姢膜堡坤筏俊
 それはメガネだった。しかもその玉というのがまっ赤なガラスなのである。
 良平はなんともいえない、へんな気持ちにうたれた。青メガネだとか、幞亭胜椤ⅳ伽膜苏浃筏猡胜螭趣猡胜ぁ¥筏贰⒊啶び瘠违幞亭胜伞ⅳい蓼蓼恰⒁姢郡长趣饴劋い郡长趣猡胜い椁坤盲俊
 良平はなんとなく、心のさわぐのをおぼえながら、しかし、これがどろぼうの落としたものだというしょうこもないので、そのままだれにも話さずに、そっとしまっておいた。
 しかし、あとから思えばこの赤メガネこそ、すべての謎をとく鍵だったのである。

     画像の秘密

 良平はねどこのなかで、またハッと目をさました。
 どこかでガタリという物音……。
 あれからきょうでちょうど十日目。
 あの二、三日こそ、きょうくるか、あすくるかと、毎晚ろくに眠れずにいたが、五日とたち、一週間とすぎて、どろぼうの記憶もようやくうすれたこの真夜中……。
 良平がねどこのなかで半身をおこして、じっと聞き耳をたてていると、とつぜん庭のほうから聞こえてきたのは、はげしい男のわめき声、それにつづいてピストルの音。
 ギョッとした良平がねどこからとびだし、むちゅうになって洋服に着かえていると、なにかわめきながら、またズドンズドンとピストルをうちあう音。わめいているのは上村巡査のようだった。それにつづいて、だれかが裏の道を走っていく足音がした。
 良平がやっと洋服を着て、へやから外へとびだすと、
「あっ、良平、あなた、いっちゃだめ」
 だきとめたのはおかあさんだった。
「おかあさん、おかあさん、あれどうしたの」
「このあいだのどろぼうがまたきたらしいのよ。それを上村さんが見つけてくだすって……」
「おじさんは……?」
「おじさんは上村さんのかせいにいきました。しかし、あなたはいっちゃだめ。あぶないから」
「だいじょうぶです。おかあさん、ぼく、ちょっといってみます」
 ひきとめるおかあさんをふりきって、外へとびだすと、遠くのほうでピストルの音、ひとのわめき合う声。その声をたよりに走っていくと、むこうに陸橋が見えてきた。
 そのへんいったいは高台になっているのだが、その一部を切りひらいて、はるか下を郊外電車が走っている。そして、上には、高い陸橋がかかっているのだ。
 どろぼうはこの陸橋の上まで逃げてきたが、見るとむこうからもピストルの音を聞きつけて、パトロ毪尉伽撙盲皮搿¥Δ筏恧樯洗逖矕摔诵廊袱丹蟆ⅳ饯欷摔丹铯蚵劋い皮趣婴坤筏俊⒔韦窑趣螭激ぱ氦筏瑜护皮俊
 どろぼうは、もう絶体絶命だった。
 ズドン! ズドン!
 めくらめっぽうに二、三発、ピストルをうったかと思うと、ひらりと橋のらんかんをのりこえたが、そのとたん、古くなってくさりかけたらんかんが、メリメリと気味の悪い音をたててくずれてしまった。
「うわっ!」
 どろぼうは、世にも異様な悲鳴を残してまっさかさまに落ちていった。
「あっ、落ちた、落ちた」
「下へまわれ、下へまわれ」
 良平はドキドキしながら、はるか下の線路の上によこたわっている、どろぼうのすがたを見まもっていたが、どろぼうはもう、身動きをするけはいもない。そのうちに、線路づたいに、カンテラを持ったひとが四、五人、なにか叫びながら近づいていくのが見えた。
 そこまで見とどけておいて、良平が家へ帰ってみると、さわぎをきいて美也子がおみまいにきていた。そこで応接室にあつまって、三人で話をしていると、半時間ほどして欣三おじさんと、上村さんが帰ってきた。
「おじさん、どろぼうは?」
「死んだよ、首根っこを折って。良平、やっぱりあの男だったよ。古道具屋で会った男……」
「どうも残念なことをしましたよ。きっともう一度やってくるにちがいないと、このあいだから気をつけていたんですが、かんじんなところで殺してしまって……これであの男が、なぜ杉の剑肖辘亭椁Δ韦ⅳ铯椁胜胜盲皮筏蓼い蓼筏郡椁汀
 職務に忠実な上村さんは、いかにも残念そうだった。おかあさんがいろいろお礼をいった。
「しかし、上村さん、あいつへんなメガネをかけてましたね。赤いメガネ……こなごなにこわれてましたけど、あれどういうわけでしょう」
 赤いメガネ……!
 良平はそれを聞くと、ハッとこのあいだひろったメガネのことを思いだした。
 ああ、それではやっぱり、あれはどろぼうが落としていったものだったのか。
 良平はそっとへやからぬけだして、じぶんのへやから赤いメガネを持ってくると、それをかけて応接室のなかを見まわしてたが、とつぜん、なんともいえぬ大きなおどろきにうたれたのである。
 悪魔の画像にベタベタぬられたあの赤い色は、メガネの赤にすっかり吸収されて、そのかわりに、いままで、赤色のために目をおおわれていたべつの色、べつの形が、悪魔の画像の下から、くっきりとうかびあがってきたではないか。
 幼いキリストをだいた拢弗蕙辚ⅲ
「ああ、エル.グレコだ! エル.グレコの剑饯长摔ⅳ耄 
 気ちがいのように叫ぶ良平をとりまいて、そこにどのようなさわぎがもちあがったか、それは諸君の想像にまかせることにしよう。

 さて、エル.グレコを模写した杉勝之助は、毎日それをながめて勉強していたが、そのうちに、どうしても模写ではものたりなくなり、ほんものがほしくなった。そこで美也子の一家が軽井沢へ避暑にいっているるすちゅうにしのびこんで、ほんものと模写とすりかえてしまったのである。
 しかし、ほんものをそのまま、じぶんのアトリエにおいとくわけにはゆかない。なぜといって、そこには本職の画家たちがよくあそびに来るから、すぐほんものか模写か見やぶってしまうからなのだ。
 そこでエル.グレコの剑紊悉恕ⅳ伽膜谓}をかいておいたのだった。
 きみたちは白い紙に、赤と青で線をひいて、その上に赤いパラピン紙をあてがうと、赤の線は消えて、青の線だけが紫になって見えることをたぶん知っているだろう。
 杉勝之助はその原理を応用したのだ。そして、エル.グレコの剑姢郡胜欷小⒊啶ぅ幞亭颏堡朴Q賞していたのである。
 しかし、そのうちに良心のとがめと、とてもエル.グレコにおよばないという絶望から、とうとう気がくるって自殺したのだった。

 勝之助のおじの諸口章太は、そんなことは知らないで、勝之助の剑驂婴盲皮筏蓼盲俊¥趣长恧饯欷樗摹⑽迥辘猡郡盲啤僦稳沼洡蛘iんで、はじめてそこに、そんな貴重な剑丹欷皮い毪长趣蛑辍ⅳ悉袱幛韦Δ沥悉郡盲绚筏閯僦谓}をぬすんでまわっていたが、どれもこれも思う品ではなかったので、はじめて赤いメガネをかけて、ぬすむまえに、よく眨伽毪长趣蛩激い膜い郡韦坤盲俊
 悪魔の画像は専門家の手によって、きれいに洗いおとされた。そして、もとどおりエル.グレコの剑摔à毪取⑿廊袱丹螭椁ⅳ椁郡幛啤⒚酪沧婴摔à丹欷俊
 美也子はしかし、それを売ろうとはしなかった。売る必要がなかったからである。なぜといって、美也子さんはそれから間もなく、欣三おじさんと結婚したのだから……。
 したがって、欣三おじさんは良平のうちを出たが、そのかわり、良平のうちには、また、新しい、よいお友だちがやって来た。
 いうまでもなく、それが杉勝之助の妹の、あのけなげな芳子であることは、きっときみたちも想像がついたことだろう。



   ビ圣工涡


     三人の伩

 阿佐ヶ谷でドヤドヤとひとがおりてゆくと、いままでこんざつしていた電車のなかはきゅうにしずかになった。
 K大学生|三《み》|津《つ》|木《ぎ》|俊助《しゅんすけ》は、ホッとしたように読みかけの本をひざの上におくと、なにげなく車内を見まわしたが、広い車内には、じぶんのほかに、たったふたりしか伩亭い胜い长趣藲荬膜い俊
 ひとりは十四、五歳のかわいい少女である。俊助はなんとなくこの少女に見おぼえがあるような気がしたが、どこで見た少女なのか思いだせなかった。もうひとりは年ごろ四十歳ぐらいの小男で、こうしじまのコ趣韦à辘祟啢颏Δ氦幛毪瑜Δ摔筏啤ⅳ丹盲椁筏辘摔い亭啶辘颏筏皮い搿¥椁螭趣筏侩娷嚖韦胜恕ⅳ皮螭袱绀Δ坞姛簸肖辘い浃摔ⅳ毪ぁ?≈悉猡铯亥畅‘トのえりを立てると、窓ガラスにひたいをくっつけるようにして外をながめた。
 時間は夜の十一時すぎ。電車はいま阿佐ヶ谷と|荻《おぎ》|窪《くぼ》のあいだの闇をついて、まっしぐらに走っている。
 秋もすでになかばをすぎて、電車の外にはさむざむとした|武蔵《む さ し》|野《の》の風景が、闇のなかにひろがっていた。
 このとき、ふとひとのけはいがしたので、俊助はなにげなくふりかえって見ると、今までむかいがわにいた少女が、いつの間にか俊助のすぐうしろにきて、重いガラス窓をあけようと、一生けんめいになっているところだった。
「窓をあけるのですか」
「ええ」
「あけてあげましょう」
 俊助が腕をのばして、重いガラス戸をあけたときである。ふいに、少女のあらい息づかいが、俊助の耳のそばであえぐようにはずんだ。
「おねがいです。助けてください」
「え?」
 俊助はおどろいてふりかえると、
「きみ、いまなにかいいましたか」
「あら! いいえ。あの、あたし……」
 少女はどぎまぎして、なにか口ごもりしながら、窓からくらい外をのぞいている。
 じみなサ袱问聞辗紊悉恕ⅳ蓼贸啶拭椁违蕙榨椹‘をかけているのが目についた。目のぱっちりしたりこう[#「りこう」に傍点]そうな感じのする少女で、二つにあんで肩にたらした髪の毛が、ヒラヒラと風におどっている。
 ――みょうだなァ。たしか助けてくれといったようだったがなァ。そら[#「そら」に傍点]耳だったのかしら?
 俊助はふしんそうに、少女の横顔をながめていたが、やがて思いあきらめたように、読みかけの本を取りあげた。すると、そのとたん、美しい彼のまゆねにそっとふかいしわ[#「しわ」に傍点]がきざまれた。見おぼえのない紙きれが一枚、いつの間にやら本のあいだにはさんであるのだ。
 俊助はなにげなく、その紙きれの上に目を走らせた。

[#ここから2字下げ]
オネガイデス。|吉祥寺《キチジョウジ》マデオリナイデクダサイ。悪者ガワタシヲネラッテイマス。助ケテクダサイ!
[#ここで字下げ終わり]

 あわただしいエンピツの走り書きなのである。
 俊助はおもわずドキリとして息をのんだ。考えるまでもない手紙の主は少女にきまっていた。さっき俊助が窓をひらいているあいだに、手早く本のあいだにはさんだのであろう。
 それにしても『悪者がわたしをねらっています』というのはおだやかでない。いったい、どこに悪者がいるのだろう。
 俊助はふと気がついたように、むこうのほうにいる男のほうへ、ソッと目をやった。するとどうだろう。今までいねむりをしていると思っていたあの男が、帽子の下からするどい目をひからせて、じっとこちらのほうを見ているのに気がついたのである。男は俊助の視線に気がつくと、あわてて目をそらしたが、ああ、その目のひかりのものすごさ。
 俊助はおもわずゾ盲趣筏郡ⅳ筏筏饯欷韧瑫rに、ふしぎなくらい心のよゆうができてきた。彼はしずかに紙きれをポケットにしまうと、真正面をむいたまま、ひくい声で、
「しょうちしました。ぼくがいるから心配しないで」
 と、ささやいた。
 電車は間もなく荻窪についた。かれは、そこで下車するはずだったが、かれはおりなかった。
 少女は寒そうにマフラ颏悉铯护胜椤ⅳ趣嗓А钉ⅳぁ罚姟钉蟆筏工毪瑜Δ四郡颏ⅳ菠啤⒖≈晤啢蛞姢毪饯韦铯い椁筏ゎ啢蛞姢皮い毪Δ沥恕⒖≈膝榨盲趣长紊倥蛩激い坤筏俊
 彼女は新宿堂という大きなパン屋の売り子としてはたらいている、けなげな少女だった。
「きみの名、なんていうの?」
「あたし、|瀬《せ》|川《がわ》|由《ゆ》|美《み》|子《こ》といいますの」
「由美子さん、いい名だね」
 ふたりがこんな話をしているうちに、電車は吉祥寺へついた。すると、今までいねむりしているようなふうをしていた例の小男が、すっくと立ちあがると、ジロリとものすごい一べつをふたりのほうにくれて、スタスタと電車から出ていった。
 なんともいえないほど気味の悪い目つきだった。俊助と由美子は、おもわずゾ盲趣筏祁啢蛞姾悉铯护郡韦扦ⅳ搿

     発明家兄妹

「きみはあの男知っているの?」
 ふたりがプラットホ啶爻訾埔姢毪取ⅳ猡Δ丹盲文肖韦工郡嫌挨庑韦庖姢à胜盲俊
「いいえ。まるきり知らないひとですの」
 由美子は寒そうに肩をすぼめながら、
「それが、どういうわけか、このあいだからしじゅうああして、あたしのあとをつけていますのよ。あたしも気味が悪くて、気味が悪くて……。ほんとうにありがとうございました。あのひととふたりきりになったらどうしようかと思いました」
「とにかく、そこまで送っていってあげよう」
 仱暝饯妨辖黏颏悉椁盲皮栅郡辘脑冥虺訾毪取ⅴ穿‘ッとすさまじい音をたてて、冷たい夜風が吹きおろしてきた。時間が時間だから、どの家も戸をとざして、シ螭惹蓼筏氦蓼盲皮い搿
「きみのうちはどのへん? 駅の近くなの?」
「|井《い》の|頭公園《かしらこうえん》のむこうですの」
「それじゃたいへんだ。そんなさびしい道を、きみは毎晚ひとりで帰っていくの。だれもむかえにきてくれるひとはないのですか」
「ええ、にいさんが、このあいだから、かぜをひいて寝ているものですから」
「にいさんのほかにだれもいないの?」
「ええ」
 由美子はかなしげにため息をついた。
「それは気のどくだ。じゃ、とにかくとちゅうまで送ってあげよう」
「あら、だって、そんなことをなすっちゃ、荻窪へお帰りになる電車がなくなりますわ」
「なあに、そうすれば步いて帰りますよ。さっきのやつがどこかにかくれているかわからないし……さあ、いっしょにいってあげよう」
「ええ、すみません」
 そこでふたりはならんで步きだした。
 みちみち由美子が問われるままに語ったところによると、彼女はたいへんかわいそうな身の上であった。三年ほどまえまでは、彼女の家庭はひとにうらやまれるくらいゆうふくであったが、父と母があいついで亡くなってからというもの、バタバタと家撙郡啶い皮筏蓼盲啤⒔瘠扦闲证趣栅郡辘辍ⅳ婴螭埭Δ韦嗓螭兢长恕ⅳ趣辘韦长丹欷皮筏蓼盲郡韦扦ⅳ搿
「それで、にいさんはなにをしているのですか」
「にいさんはたいへんかわったひとですの」
 由美子はちょっとためらいながら、
「親戚や知り合いのかたは、みんなにいさんをきちがい[#「きちがい」に傍点]だといいますけれど、あたしはあくまでもにいさんを信じてます。にいさんはただしくて強いひとです。いま、ある発明に熱中しておりますの」
「発明?」
「ええ、親類のひとたちは、てんで相手になってくれませんけれど、あたしにはにいさんに力があることがわかっています。ただ残念なことには、あたしたちはびんぼうなものですから、ろくに研究材料も買えなくて、あたし、それでいつでもにいさんを気のどくだと思っています」
「なるほど、よくわかりました。それできみは、そうしてはたらいて、にいさんの研究を助けているのですね」
「ええ、……おばさまさえ生きていらっしゃれば、こんなことせずともよかったのですけれど……」
「おばさまというと……」
「ごぞんじありませんか? 去年ウィ螭峭訾胜盲可鶚S家の|鮎《あゆ》|川《かわ》|里《さと》|子《こ》というひとですの」
 俊助はびっくりして由美子の顔を見た。
 日本人で鮎川里子の名を知らぬ者があるだろうか。日本のほこり[#「ほこり」に傍点]というよりも、世界の宝玉とまでたたえられた、偉大な芸術家である。
 その鮎川里子が、このまずしいパン屋の売り子のおばであろうとは!
「おばはやさしいかたでした。あたしたち一家に、つぎつぎと不幸が起こったときには、あのかたは遠い外国にいられたのですが、あのかただけがほんとうに、あたしたち兄妹のために泣いてくださいました。
 そして、にいさんがあの発明に熱中しだしてからというもの、お金持ちの親戚たちが、つぎつぎとはなれていったなかに、おばだけはいつも外国からやさしいげきれいの手紙をくださいました。
 研究の費用にといって、ばくだいなお金を送ってくだすったことも一度や二
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